Sunday, December 7, 2008

ヴィンセント・ヴァン・ホォーホ?

まだ続いていたオランダ語カタカナ表記議論(第4回)

「なぜオランダ語の[v]を日本では「フ」と表記するのか」という疑問に対して、資料を紹介して頂いた。

「オランダ語のvは、英語のvとfの中間で発音される音であり、英語話者にはなかなか難しい。しかし、南北境界河川以北では、語頭のvはだいたい無声化し、fと発音されるといってよい。英語話者は、オランダ語の語頭のvは英語のvよりはfのように発音するほうがいい。母音間の場合、慎重に発音する場合か、または、南北境界河川の南部ではvは有声音である。(『オランダ語誌』B.C.ドナルドソン、現代書館)」

この件に関して、またドイツ語の先生から次のような内容で丁寧なご教示を頂く。
同一言語でも、いろいろ地方差があるのが普通で、学的に問題とすべきは、標準語がどうか、ということ。
実用の問題は別次元で、発音記号は一つの約束事なので、曖昧音を表記する機能を持っていない。
'V' に関しては、英独仏共、その発音は〈オランダ語では[ヴ]〉と規定。それにブレがある、―地方や綴字の関係で―、ということがあるにしても、表記がブレる訳にはゆかない。

'Gogh' の読み方: 原語風であれば 、まず[ホッホ]。でも、これもいい加減なカタカナで この発音記号[x]の音は、日本語にはない。あえて書くなら[ホォーホ] と中を少し撥ねて半長音にした方がいいかも、と教えて頂く。いずれにせよ、「フィンセント・ファン・ゴッホ」はおかしいということで意見が一致。

現在西欧語が使用している Alphabet は、本来、ラテン語では、後に子音が来るときは'U'、母音が来るときは'V'と、使い分けているそうで、もとは'U'一字だった。例えば 'univers' (ウニヴェルス)など。
だから、現在オランダ語の 'Vl-' という綴りは、この決まりから外れることになる。
英独仏には、この種の綴りは存在しないそうで、理由は以下の通り。

「元来のゲルマン語は 'V=F' でした。前に申したとおり、現在もドイツ語の'V’は[f] 音です。ただし、外来語を除きます。外来語は[v]です。
試みに、 ドイツ語の'Flamme'(炎)を引いてみると、ラテン語では'flamma' ですが、中世ドイツ語では綴りが 'vlamme'となっています。
ところがゲルマン語では、中世初期から〈子音推移〉が起こって、語頭の'V'はすべて'F' に変換されます。この音韻変化は南部で強く、北部では顕著ではありません。どうも、北のオランダ地域では影響なしに過ごしたようです。私はかつて必要があってオランダ語を勉強したとき、この言葉はなんと古めかしい言葉だな、と思ったことがあります。いま、その思いを新たにしているところですが、一方、英独仏等、近代西欧語には別個の音韻法則が発達し、その影響も受けて、オランダ語は、中世と現在の中間でふらふらしている感じです。この感じは、事実に反映しているように思われます。」

なるほど!とても興味深いお話で、結局はオランダ語のカタカナ表記は、ドイツ語の影響を受けていることが分かる。  さらに興味深いお話→「ゴッホはどうなる?」

6 comments:

liebejudith said...

こんにちは。こちらへコメントさせていただくのは久しぶりです。
オランダ語は、のどをかき鳴らすようなGの発音もカナでは表すことが難しい音ですよね。実用面では、我々はムリしてオランダ人と同じように発音せずに、外国人らしくきっぱりと英語風に読んでしまった方が通じやすいみたいです。

よしちこ said...

liebejudithさま♪コメント有り難うございます。
確かに!オランダ語のGの発音がどうしてもできなくて、Gで始まる名前のオランダ人と知り合ってもいつも名前が呼べなかったです(笑)。難しすぎます。

おっしゃる通り。英語読みでも日本語になったということで、外国語を日本独自のカタカナ表記にしてもいいと思います。そこに異議を唱えると多くの表記が問題になりそうだし、そもそも正確な表記は無理ですね。
食べ物や文化など、日本は外国文化を日本化して取り入れたものが多いと思います。

ただ、なぜ定着していた「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ」がいなくなったのか不思議です。一部分だけ英語読みを避けようとしている傾向があるのではと思います。
あえて英語読みを避けてフランス語読みしたり…。「フェルメール」もドイツ語読みでしょうか。

ところで、ベルギーでモンブラン見つけられませんでした。やはり東京のレベルには負けます。築地のお寿司も恋しいです。

Anonymous said...

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホの名付け親は、武者小路実篤だそうですね。恐らく昭和初期、ドイツ語から取ったのでしょう。
Vは外来語として「ヴ」、語尾のghは[x]の発音記号にしたがって、近似音の「ホ」を当てたのでしょう。

それが今、「フィン-、ファン」のほうが原語に近いというので、入れ替わり、その後のほうは、厄介で手の付けようがないので、そのままということにした。

そんなわけで、すべてが英語風にすっきり、とは行かないので、ねじれた日本語名が出来上がった。これは、後に災いを残しますね。

もともと異質の外国語を日本語に移すことは不可能です。と同時に、外国語をカタカナ書きしたとき、それはすでに日本語になっているのです。日本語の外来語の分野です。だから、正しい表記を求める努力が必要なのです。

よしちこ said...

TENGUさま、ようこそお越し下さいました!
いつも貴重なコメントを頂き、有り難うございます。

カタカナ表記の疑問から、ドイツ語の日本語への影響やオランダ語の発音について考えることになり、大変勉強になりました。ありがとうございます。

ドイツ語もオランダ語もベルギーの公用語なので、機会を見つけて挑戦してみたいと思います。
すでにオランダ語母語のベルギー人に何度も[v]の発音を訊きましたが、次にオランダ人と話をする時はゴッホの発音を尋ねてしまいそうです。(10/31のブログに載せたビデオ、傑作です。)

Unknown said...

私もBloggerになりました。あなたの訪問者だけに留まろうとしたのですが、手続きしているうちに、仲間入りしました。

ブログ名の Sudelbuch(ズーデルブツフ)は「落書帳」の意味です。勿論ドイツ語。
この最後の 'ch' の発音が目下問題の[x]です。

よしちこ said...

TENGUさま♪ようこそブロガー仲間へ!
初めて読者になってみました。
また「ズーデルブッフ」にお邪魔しますので、
今後もよろしくお願い致します。
たぬきさん、可愛いです。