まだ続いていたオランダ語カタカナ表記議論(第4回) 「なぜオランダ語の[v]を日本では「フ」と表記するのか」という疑問に対して、資料を紹介して頂いた。
「オランダ語のvは、英語のvとfの中間で発音される音であり、英語話者にはなかなか難しい。しかし、南北境界河川以北では、語頭のvはだいたい無声化し、fと発音されるといってよい。英語話者は、オランダ語の語頭のvは英語のvよりはfのように発音するほうがいい。母音間の場合、慎重に発音する場合か、または、南北境界河川の南部ではvは有声音である。(『オランダ語誌』B.C.ドナルドソン、現代書館)」
この件に関して、またドイツ語の先生から次のような内容で丁寧なご教示を頂く。
同一言語でも、いろいろ地方差があるのが普通で、学的に問題とすべきは、
標準語がどうか、ということ。
実用の問題は別次元で、発音記号は一つの約束事なので、曖昧音を表記する機能を持っていない。
'
V' に関しては、英独仏共、その発音は
〈オランダ語では[ヴ]〉と規定。それにブレがある、―地方や綴字の関係で―、ということがあるにしても、表記がブレる訳にはゆかない。
'Gogh' の読み方: 原語風であれば 、まず[ホッホ]。でも、これもいい加減なカタカナで この発音記号[x]の音は、日本語にはない。あえて書くなら[ホォーホ] と中を少し撥ねて半長音にした方がいいかも、と教えて頂く。いずれにせよ、「フィンセント・ファン・ゴッホ」はおかしいということで意見が一致。
現在西欧語が使用している Alphabet は、本来、ラテン語では、後に子音が来るときは'U'、母音が来るときは'V'と、使い分けているそうで、もとは'U'一字だった。例えば 'univers' (ウニヴェルス)など。
だから、現在オランダ語の 'Vl-' という綴りは、この決まりから外れることになる。
英独仏には、この種の綴りは存在しないそうで、理由は以下の通り。
「元来のゲルマン語は 'V=F' でした。前に申したとおり、現在もドイツ語の'V’は[f] 音です。ただし、外来語を除きます。外来語は[v]です。
試みに、 ドイツ語の'Flamme'(炎)を引いてみると、ラテン語では'flamma' ですが、中世ドイツ語では綴りが 'vlamme'となっています。
ところがゲルマン語では、中世初期から〈子音推移〉が起こって、語頭の'V'はすべて'F' に変換されます。この音韻変化は南部で強く、北部では顕著ではありません。どうも、北のオランダ地域では影響なしに過ごしたようです。私はかつて必要があってオランダ語を勉強したとき、この言葉はなんと古めかしい言葉だな、と思ったことがあります。いま、その思いを新たにしているところですが、一方、英独仏等、近代西欧語には別個の音韻法則が発達し、その影響も受けて、オランダ語は、中世と現在の中間でふらふらしている感じです。この感じは、事実に反映しているように思われます。」
なるほど!とても興味深いお話で、結局はオランダ語のカタカナ表記は、ドイツ語の影響を受けていることが分かる。 さらに興味深いお話→「
ゴッホはどうなる?」